Topics:もう一つのスポーツ「パラスポーツ」の広がり

リハビリテーションを目的とするものから、体を鍛えて勝利を目指す者同士の純然たる競技へと変貌を遂げて久しい障害者スポーツ、パラスポーツ。2020年東京パラリンピック競技大会 (Paralympic Games)を約1年後に控え、先行開催の東京オリンピック競技大会に比べて「影が薄い」といったイメージは少しずつですが払拭されつつあるようです。

もう一つのスポーツ

パラスポーツ(Para-Sports)、このことばはここ数年でにわかに定着してきました。パラとはパラリンピック(Paralympic)のPara。1980年代終盤に「もう一つの」の意味をもつParallelが、その語源として定義づけられました。障害者スポーツという呼称がもたらす、健常者のスポーツとは別物、あるいはやや見下されたような印象のものから脱却し、健常者のスポーツと肩を並べて存在する、スタイリッシュな「もう一つの」スポーツとして受け止めてもらいたいという、当事者たちの切実な思いが込められた結果とみえます。

確かに、競技性の向上や練習環境の整備、マスメディアなどの注目度において両者の差は徐々に縮まり、明るく前向きな効果ももたらされてきました。しかしその一方で、格差が縮まり両者の垣根がぐんぐん低くなってきたことで、新たな問題や課題が浮上してきました。

新たな問題

まず2011年の陸上競技世界選手権大会と翌2012年のロンドン・オリンピック競技大会。両足義肢のスプリンター、オスカー・ピストリウス選手(南アフリカ共和国)が健常者と同じ舞台に立ち、個人種目の400mと、4×400mリレーに臨んだのです。ここでは彼はめぼしい結果を残せませんでしたが、ひとたびオリンピック選手、いわゆる健常者の記録を脅かすパラスポーツ選手が登場したとなると話が違ってきました。

右足義肢の走り幅跳び選手マルクス・レーム(ドイツ)は、2015年にカタールのドーハで開催された国際パラリンピック委員会(IPC)主催の世界選手権大会で、ロンドン五輪の優勝者グレッグ・ラザフォード(イギリス)の記録8m31を上回る8m40の記録を出したのです。レームは2016年リオデジャネイロ・オリンピック競技大会への出場を希望しましたが、「性能が高度化した義足が跳躍に有利に働いていない」ことの証明ができず、国際陸上競技連盟(IAAF)から出場許可はおりませんでした(レームは2020年東京五輪の出場も目指すことを表明しているようです)。

スポーツ競技に厳しく求められるフェアプレーの精神、公平性・公正性の確保を鑑みると、義足などの「用具」の問題は徹底議論される必要がありそうです。かつて競泳の世界で問題となった高速水着レーザーレーサーは「用具によるドーピング」とまで言われました。ましてやいまの時代、オリンピックなど著名な国際競技大会で勝利した者には一生分の名誉や、高額の収入がある程度約束されているわけですから、そこは、統括組織にきちんと整備・管理してほしいもの、と思うのは一般のスポーツファンの偽らざる気持ちでしょう。

もっと私たちの側に

ストイックに勝負に挑む競技者たちの世界では、解決に頭を悩ませるような問題がこれからも浮上し続けそうですが、私たち一般のスポーツファンは「もう一つの」スポーツをもっと楽しみたいものです。

パラスポーツは、テレビやインターネットの映像を通じて競技のもようを見る機会が増えました。そして1年後はパラリンピック。開催会場に出向いて臨場感を味わうもよし、残暑を避けて自宅でテレビ観戦もよし。世界レベルの戦いを一度は見てみましょう。特に「パラスポーツ独自」といわれる競技、ゴールボール、シッティングバレーボール、ブラインドサッカー、ボッチャといったチーム競技はアイデア満載で魅力的。また、車椅子同士の激突が大迫力の車いすラグビーや車いすバスケットボール、そして陸上競技、競泳、柔道、卓球などのパラスポーツ版も、選手たちの高い技術と鍛え抜かれた肉体に感動を覚えます。

将来的には「参加」だってありえます(一部ではすでに試みられてます)。ゴールボールやブラインドサッカーは参加者全員がアイマスクを装着すれば、シッティングバレーボールは全員が座れば、健常者・障害者問わず、どこかに集まっていっしょになって楽しめそうですね。車椅子が自由に扱えれば、競走や体当たりの多い格闘スポーツも可能。試合が終われば、みんなでビールでも一杯…。

身体的な制約をアイデアや工夫で克服し、主体的に楽しむものとなったパラスポーツ。そもそもスポーツは、人間の自由気ままな動きに制限を加えて共通ルールのもとで楽しむためにつくられたもの。厳しい制限やルールがあるから楽しいし、チームメートやライバルへの配慮、敬意もそこから生まれます。だれがするスポーツであれ、スポーツマンシップやフェアプレーの精神の表出に私たちは本質的な喜び、楽しみを見出すものと信じています。


ブリタニカ・オンライン・ジャパンの大項目事典には、スポーツの意義や成り立ちなどについて詳説した「スポーツ」、オリンピックとパラリンピックを章別に詳しく解説した「オリンピック競技大会」が掲載されております。また明治以降近年までの日本において教育的な側面が強調された「体育」も参考にしてください。

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